今回は、数々の鍵のトラブルを解決してきたベテラン鍵師の方に、万が一、鍵が鍵穴の中で折れてしまった際に、自分で試せる可能性のある、比較的安全な抜き方について、プロの視点から特別に教えていただきました。ただし、これはあくまで応急処置的な方法であり、少しでも難しいと感じたら、すぐに作業を中断し、専門家を呼ぶことを強く推奨します。まず、大前提として、この方法が試せるのは「鍵の破片の断面が、鍵穴の入り口から見えており、かつ、ある程度の隙間がある場合」に限られます。破片が奥深くに入り込んでしまっている場合は、絶対に手を出してはいけません。準備する道具は、模型用などに使われる、先端が細くて丈夫な「ピンセット」と、鍵穴専用の「潤滑パウダースプレー」です。絶対に、粘度の高い潤滑油(CRCなど)は使わないでください。まず、鍵穴と、その中に残っている破片の隙間に向かって、潤滑スプレーを軽くワンプッシュします。これにより、内部の滑りが良くなり、破片が動きやすくなります。スプレーしすぎると、ホコリが固まる原因になるので、本当に少量で十分です。次に、ピンセットの先端を、破片の両側にあるわずかな隙間に、そっと差し込みます。この時、焦って奥に押し込まないよう、細心の注意を払ってください。ピンセットの先端で、破片をしっかりと、しかし優しくつまみます。そして、ここからが最も重要なポイントです。力任せにまっすぐ引き抜こうとするのではなく、鍵を普段、抜き差しする時のように、内部のピンを上下に細かく揺さぶるような、あるいは、左右にわずかに回転させるような、微細な動きを加えながら、ゆっくりと手前に引いてきます。シリンダー内部のピンは、鍵が刺さっている状態では上下に動く余裕があります。このピンの動きに合わせて、破片を「あやす」ように動かすことで、引っかかりをなくし、スムーズに引き抜ける可能性が高まるのです。この作業は、極めて高い集中力と、繊細な指先の感覚を要します。もし、数分試してもうまくいかない場合や、破片が少しでも奥に入ってしまったと感じた場合は、それがあなたの限界です。それ以上は、状況を悪化させるだけです。すぐに作業を中止し、私たちのようなプロに、正直に状況を説明して助けを求めてください。それが、結果的に最も賢明な判断となります。