新しい部屋を借りる際、敷金や礼金、仲介手数料といった初期費用の中に、「鍵交換費用」という項目を見つけて、「なぜ自分が払わなければならないのか」と疑問に思った経験はありませんか。前の入居者が使っていた鍵をそのまま使えば、この費用はかからないはず。そう考えるのも無理はありません。しかし、この入居時の鍵交換は、あなたの新しい生活を安全かつ安心してスタートさせるために、極めて重要な意味を持つ、いわば「安心料」なのです。その最大の理由は、言うまでもなく「防犯上のリスク」を排除するためです。あなたがこれから住む部屋の鍵は、前の入居者だけでなく、その家族や恋人、友人など、どれだけの人が合鍵を持っているか、誰にもわかりません。万が一、悪意のある人物が合鍵を所持していた場合、いつでも自由にあなたの部屋に侵入できてしまうという、恐ろしいリスクが存在します。ストーカー被害や空き巣など、深刻な犯罪に巻き込まれる可能性もゼロではないのです。大家さんや管理会社には、新しい入居者に対して、安全な住環境を提供するという責任があります。そのため、入居者が入れ替わるタイミングで、シリンダー(鍵穴)ごと新しいものに交換し、前の入居者が持っている可能性のある全ての鍵を無効化する。これは、あなたの安全を守るための、最低限かつ最も確実な防犯対策なのです。法的な観点から見ると、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、入居時の鍵交換は必須ではなく、費用負担については貸主と借主の話し合いによる、とされています。しかし、実際にはほとんどの賃貸借契約で、「借主負担」とする特約が設けられており、これが慣例となっています。初期費用の中で決して安くはない出費ですが、この費用を支払うことで、あなたはその部屋の鍵を独占的に所有する権利と、誰にも脅かされないという安心感を手に入れるのです。新しい鍵を受け取った瞬間から、その部屋は本当の意味で「あなたの空間」になる。鍵交換費用は、そのための大切な儀式とも言えるでしょう。
入居時の鍵交換費用はなぜ払う必要があるのか