昨今のDIYブームを背景に、「玄関の補助錠も、自分で取り付ければ費用を安く抑えられるのでは?」と考える方が増えています。確かに、うまくいけば数万円の節約になるDIYでの鍵の後付けは魅力的ですが、それは同時に、住まいの安全という最も重要な部分を自らの手で危険に晒すリスクもはらんでいます。挑戦する前に、その可能性と深刻なリスクについて、正しく理解しておく必要があります。まず、DIYでの後付けが比較的簡単なのは、ドアの内側のサムターン(ツマミ)に被せて設置するタイプの「スマートロック」です。これらの製品の多くは、特別な工具を必要とせず、両面テープと簡単なネジ止めだけで設置できるよう設計されています。取扱説明書をよく読めば、DIY初心者でも数十分で取り付けが可能でしょう。しかし、問題は、ドアに穴あけ加工が必要となる、本格的な「面付錠」や「電子錠」の場合です。これらを素人がDIYで取り付けるのは、極めて難易度が高いと言わざるを得ません。最大の難関は、ドアへの正確な穴あけ作業です。シリンダー(鍵穴)を通すための大きな円形の穴や、錠ケースを固定するためのビス穴など、ミリ単位の精度で、指定された位置に開けなければなりません。そのためには、電動ドリルはもちろん、サイズに合ったホールソーやドリルビット、正確な位置を割り出すためのメジャーやマーキングツールといった専門的な工具が不可欠です。もし、穴の位置が少しでもずれてしまえば、鍵は正常に機能しないばかりか、最悪の場合、ドアに修復不可能な傷をつけてしまうことになります。そうなれば、鍵の購入費が無駄になるどころか、ドアの修理や交換で、業者に依頼するよりもはるかに高額な出費を強いられることになりかねません。さらに、たとえ形の上では取り付けができたとしても、施工が不完全であれば、鍵にガタつきが生じたり、デッドボルト(かんぬき)がしっかりと受け金具にかからなかったりして、鍵本来の防犯性能を全く発揮できない危険な状態になります。これは、もはや鍵ではなく、ただの「飾りに」すぎません。家族の安全を守るという、鍵の最も重要な役割を考えれば、穴あけ加工が必要な本格的な鍵の後付けは、迷わずプロの業者に任せるのが、最も賢明で確実な選択と言えるでしょう。