認知症の家族の徘徊を防ぎたい。しかし、火災や地震などの災害時に、逃げ遅れるようなことがあっては絶対にならない。この二つの、時に相反する要求を、どのようにすれば両立させることができるのでしょうか。このジレンマは、徘徊防止対策を考える上で、最も重要で、そして最も難しい課題です。この問題を解決するためには、鍵の機能だけに頼るのではなく、複数の対策を組み合わせた、多層的なアプローチが必要となります。まず、鍵の選定においては、「非常時には外部から解錠可能であること」が大前提となります。介護者だけが持つ専用キーで内側から施錠するタイプや、外からマスターキーで開けられる電子錠など、必ず緊急時のアクセスルートを確保できる製品を選びましょう。そして、その非常用の鍵は、玄関の近くのキーボックスや、信頼できるお隣さんにあらかじめ預けておくなど、いざという時に誰でもすぐに使えるような体制を整えておくことが極めて重要です。次に、鍵による物理的な対策と並行して、「センサーによる見守りシステム」を導入することも非常に有効です。玄関ドアや窓に開閉センサーを設置し、もし扉が開けられた場合には、介護者のスマートフォンに即座に通知が届くように設定します。これにより、鍵が突破されたとしても、その事実をリアルタイムで把握し、すぐに対応することができます。このシステムがあれば、就寝中など、常に監視していられない時間帯でも、大きな安心感を得ることができます。さらに、GPS機能を内蔵した小型の発信機をご本人に携帯してもらう、という対策も組み合わせると、より万全です。万が一、外出してしまった場合でも、スマートフォンやパソコンから現在の位置情報を正確に把握し、迅速に探し出すことが可能になります。自治体によっては、こうしたGPS端末の貸し出しや購入費用の助成を行っている場合もあるため、一度、地域の窓口に相談してみることをお勧めします。徘徊防止は、一つの鍵で全てを解決しようとするのではなく、「物理的な抑止(鍵)」「リアルタイムの検知(センサー)」「万が一の追跡(GPS)」という三つの防御ラインを組み合わせる。この多層的な考え方こそが、ご本人の安全と災害時の避難経路という、二つの大切なものを両立させるための鍵となるのです。
徘徊防止と災害時の安全確保を両立させる鍵